シンポジウムの目的と概要
イタセンパラは,コイ科タナゴ亜科に属するわが国固有の淡水魚である.この魚は,雨季には洪水をもたらすという東アジアモンスーン気候が特徴づける,河川下流域の氾濫原の環境に見事に適応した生活環をもつ.かつては大阪平野,濃尾平野,富山平野に広く分布していたが,河川周辺の改修や利用により,ここ数十年間の間に分布域全域で急減している.それに対し市民・行政レベルで早くから本種の保護活動が始められ,また淡水魚では初の国指定天然記念物に,環境省レッドリストでも当初より絶滅危惧種に指定されてきた.なかでも淀川下流域はイタセンパラの象徴的な生息水域として,市民・行政・研究者が連携して保全に取り組んできた.しかし,そのような努力にもかかわらず,淀川下流域では,この数年,本種の生息がまったく確認されず,きわめて危険な状況となっている.イタセンパラの危機は,本種のみならずわが国の本来の流域環境や生物の多様性が急速に失われつつあることの証と受け止める必要がある.
本シンポジウムでは,イタセンパラの生態と河川環境のかかわりについて理解を深め,市民,研究者,および河川管理者等の行政が相互に意見の交流を図りながら,その復活への道筋を見いだすことを主眼とする.併せて,本種を具体例として今後の河川行政や生物多様性保全に大きく寄与したい.そのために,本種の系統保存から流域管理にいたるまで,まずは各地の保全現場にいる市民,研究者,行政等いろいろな立場から語ってもらい,本種の保全に関わる問題点を参加者間で共有する.そのうえで,パネリストと一般参加者が同じ土俵で議論を進め,本種復活のシナリオをともに探る.以上を通じて,一般参加者の生物多様性保全に対する意識高揚を図り,今後の河川行政や生物多様性保全のあり方についても一定の方向性を見出すことをめざす.
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