2020年9月26日
「魚類の標準和名の命名ガイドライン(案)」に寄せられたご意見への回答
日本魚類学会標準和名検討委員会
- 近年の分子系統学的研究の進展と関連した分類体系の変更に伴い、日本産種が帰属する属が変更されることで適用すべき属の標準和名がなくなるか、あるいは未確定になる事例が頻発している。そのような属の標準和名の命名あるいは決定は、国内研究者がその分類群の研究を行うか、図鑑や総説の出版まで待たねばならない。このような事態を解消する方策をガイドラインに盛り込むべきではないか?
回答 本ガイドラインは標準和名の命名行為を手助けするものであり、命名行為の促進あるいは強制を意図するものではありません。そして命名行為は本来研究者の自由意志により行われるべきものです。従いまして、ガイドラインにご要望の内容を盛り込むことは困難です。
- 長音や四つ仮名(ジ、ヂ、ズ、ヅ)のように片仮名表記とヘボン式ローマ字表記が必ずしも1対1にならないような場合を考慮し、ガイドラインに反映させるべきではないか?(3.1.5および注6)
回答 ローマ字の綴り方についてはヘボン式や訓令式という広く一般に普及している表記体系があり、さらにそれらから派生した複数の方法がある現状では、長音や四つ仮名の表記方法を決めることは現段階では困難であると考えています。ただし、ガイドラインでは注6において「片仮名に変換されることを想定し、混乱しないように配慮すべきである」としているので、その範疇においての対応は現状でも可能であると考えています。例えば英語論文において新標準和名を提唱するケースでは、語源を明記するだけでなく、当該の文字が「ズ」であれば「The element "zu" in the standard Japanese name is a derivative of "su" in Japanese.」のような説明をつけることで混乱を避けることが可能であると考えられます。
- 名義タイプ亜種の標準和名は学名に倣って種の標準和名を適用するのが自然であり、もしそのような事例があれば加えた方がよい。(4.1.4)
回答 種とその名義タイプ亜種との標準和名を一致させている事例にカゼトゲタナゴがあります(北村・内山,2020)。ただし、包含される亜種の分類が混乱しているため、現時点では適切な事例を見いだせておりません。一方、亜種を含む種の標準和名で、種と名義タイプ亜種とで異なる名称を与えている事例は、バラタナゴ以外にもフナ(細谷, 2013)やナミスジシマドジョウ(中島・内山, 2017)、タビラ(北村・内山, 2020)などが知られています。種と名義タイプ亜種との間で異なる標準和名を与える最大の利点は、標準和名だけで認識対象が種か亜種のいずれであるかを特定できることです。例えば図鑑で亜種の標準和名が使われていれば、その解説は亜種のものであると判断できます。また、その種が亜種に細分されていることが字面から理解しやすくなることも利点の一つです。例えば「バラタナゴはバラタナゴとニッポンバラタナゴの2亜種に細分されている」と「バラタナゴはタイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴの2亜種に細分されている」という2つの文章を比べれば、一般には後者が理解しやすいことは明白です。学名の原理を理解している標準和名の利用者はごく少数であるため、今後新たに亜種を認める際には、本ガイドラインに沿った命名が望まれます。
- 標準和名に対して少数でも異論を持つ人がいるので、「万人」(=すべての人)に受け入れられなくても、「広く」受け入れられる名称であればよいのではないか?(4.4.1)
回答 ご指摘のとおり修正しました。
- ガイドラインの体裁は『魚類学雑誌』の投稿規定に従うべきである。
回答 ご指摘のとおり修正しました(「他 → ほか」、「編 → (編)」、「ハイフン → エヌダッシュ」など)。ただし、複数の外国人著者名(スプリンガーとゴールド)を片仮名で表記する場合の例示が投稿規定になく、第2著者の姓名間の区切りに「・」、著者間の接続詞には「and」を用いました。
引用文献
細谷和海. 2013. コイ科. 中坊徹次(編), pp. 308?327, 1813?1819. 日本産魚類検索: 全種の同定, 第三版. 東海大学出版会, 秦野.
北村淳一・内山りゅう. 2020. 日本のタナゴ: 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社, 東京. 223 pp.
中島 淳・内山りゅう. 2017. 日本のドジョウ: 形態・生態・文化と図鑑. 山と渓谷社, 東京. 223 pp.
-------- 記 --------
- 意見募集の対象
魚類の標準和名の命名ガイドライン(案)(答申)
- 意見募集の趣旨
標準和名は、日本において学名の代わりに用いられる生物の名称であり、発音がしやすいこと、意味を容易に理解できること、記憶しやすいことなど、一般的になじみがない学名の短所を補う便利なものとして、対象とする生物やその関連分野の研究の進歩や普及、教育に大きく貢献してきました。ところが今日にいたるまで明文化された命名法が定められていないため、新しい名称の命名行為は慣習的に行われているに過ぎず,同名や異名の処理の基準も曖昧で、問題の合理的な解決を困難にしています.こうした現状を改善するため、標準和名検討委員会では「魚類の標準和名の命名ガイドライン(案)」を策定し、2020年8月15日付けで会長宛に答申しました。皆さまからお寄せいただいたご意見につきましては、内容を検討の上、本案作成の参考とさせていただき、10月2日に開催される代議員総会に諮る予定です。なお、ご意見について個別には回答いたしませんが、後日、解説や委員会の考え方についてホームページ上で公開する予定であることを申し添えます。
- 意見募集期間
2020年8月26日(水)から同年9月25日(金)まで
- 意見の提出方法
以下の事項を記載し,電子メールで提出してください.
氏名(会員番号):
ご意見:
提出先:
標準和名検討委員会
委員長 瀬能 宏
senou@nh.kanagawa-museum.jp
メールの件名を「魚類の標準和名ガイドライン(案)についての意見」としてください.
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