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2010年度魚類学会シンポジウム
2010年度日本魚類学会において開催される2題のシンポジウムは以下のとおりです.多くの方々のご出席をお願いします.尚,各シンポジウムのプログラムは8月13日までに魚類学会ホームページに掲載します.
   
黒潮と日本の魚類相:ベルトコンベヤーか障壁か
The role of the Kuroshio Current in the formation of fish fauna in the Japanese Archipelago


日時: 9月26日(日)9:30~16:30
場所: 三重県文化会館 小ホール
コンビーナー: 松浦啓一(国科博)・瀬能 宏(神奈川県博)・木村清志(三重大水実)

プログラム
1. 9:30~9:40 趣旨説明とこれまでの経緯
○松浦啓一(国科博)
2. 9:40~10:10 画像データベースを利用した黒潮流域の沿岸魚類相の比較
○瀬能 宏(神奈川県博)
3. 10:10~10:40 高知県沿岸の魚類相
○遠藤広光(高知大理)
4. 10:40~11:10 黒潮前線に位置する屋久島の特異的な魚類相
○本村浩之(鹿大総博)
5. 11:10~11:40 熱帯島嶼性魚類の両側回遊:ボウズハゼを例として
○渡邊 俊・飯田 碧・塚本勝巳 (東大大気海洋研)
6. 11:40~12:10 黒潮による分断と種分化-トウゴロウイワシ科を例にして-
○木村清志・笹木大地(三重大水実)
  12:10~13:10 休憩(昼食)
7. 13:10~13:40 東アジアにおけるキチヌの外部形態と遺伝的集団構造
○岩槻幸雄(宮大農)・千葉 悟(山形大理)
8. 13:40~14:10 障壁としての黒潮の効果-クサフグとカエルウオの例-
○吉野哲夫(琉大理)
9. 14:10~14:40 西部太平洋域におけるアカハタ遺伝的集団構造の歴史的成り立ち
○栗岩 薫(国科博)
14:40~15:00 休憩
10. 15:00~15:30 極端な幼形進化を示すシラスウオ属魚類の分子系統地理
○昆 健志(東大大気海洋研)
11. 15:30~16:00 マンボウ属各種の特徴と生物地理
○山野上祐介(東大大気海洋研)・澤井悦郎(広大院生物圏)
12. 16:00~16:30

南太平洋の温帯魚類相との関係
○馬渕浩司(東大大気海洋研)


シンポジウムの趣旨
黒潮は強大な暖流で,関東以西の日本列島太平洋岸に沿って流れ,この海域の魚類相に大きな影響を及ぼしている.黒潮は南方系魚類を日本列島に運んでくると一般に信じられているが,しかし,具体的にどこからどこへ,どんな魚を運ぶのかはほとんど分かっていない.一方,本州から九州の沿岸に生息する魚類には,中国大陸沿岸や台湾には出現するが,琉球列島には分布しない種も多く知られている.さらに,琉球列島は日本の温帯域とも,またフィリピンなどの熱帯域とも異なる魚類相を形成している可能性が高いことも明らかになってきた.このようなことから,我々は黒潮が南方系魚類を移送する「ベルトコンベヤー」であると同時に,本州から九州に分布する温帯性魚類の琉球列島への移動を阻む「障壁」であるという作業仮説を立て,2007年度から2009年度にかけて,科学研究費の補助を受けて研究を行った.本シンポジウムは,この研究で得られた成果を発表するとともに,日本及び西部太平洋の魚類に関する動物地理学的研究の方向性を検討するために計画した.なお,科研費プロジェクトに引き続き、国立科学博物館が開始した黒潮プロジェクトについても併せて紹介する.

連絡先: 松浦啓一
〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1 国立科学博物館
TEL:03-5332-7167 FAX:03-3364-7104
e-mail:matsuura@kahaku.go.jp

木村清志
〒517-0703 三重県志摩市志摩町和具4190-172 三重大学水産実験所
TEL:0599-85-4604 FAX:0599-85-5492
e-mail:kimura-s@bio.mie-u.ac.jp
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タナゴ亜科魚類を象徴とした持続可能な流水生態系保全の理論と実践
Theory and practice of sustainable lotic ecosystem conservation in bitterling fishes (Cyprinidae, Acheilognathinae) and freshwater mussels (Unionidae)


日時: 9月26日(日)10:00~16:00
場所: 三重県文化会館 2階第2ギャラリー
コンビーナー: 北村淳一(三重県博)・佐川志朗(自然共生研セ)・森 誠一(岐阜経済大)
コメンテーター: 萱場祐一(土木研自然共生セ)・西尾正輝(氷見市教育委員会)

プログラム
1. 10:00~10:15 趣旨説明とタナゴ類とイシガイ科淡水二枚貝類の繁殖生態と分布および危機的状況の概要
北村淳一(三重県新博)・佐川志朗(土木研自然共生セ)・森 誠一(岐阜経済大学)
2. 10:15~10:45 産卵母貝の生きざまを理解する:イシガイ類の基礎から応用生態までの最新知見
○根岸淳二郎(北大地球環境院・土木研自然共生セ)・佐川志朗・萱場祐一・久米学・永山滋也(土木研自然共生セ)
3. 10:45~11:15 木曽川ワンド群におけるイタセンパラ生息場所の特徴と保全再生への一考察 -繁殖ワンドと浮上稚魚微生息場所の環境特性に着目して-
○佐川志朗(土木研自然共生セ)・根岸淳二郎(北大地球環境院・土木研自然共生セ)・萱場祐一・久米学(土木研自然共生セ)・池谷幸樹(アクアトト岐阜)・北村淳一(三重県新博)・白江健造(木曽川上流河川事務所)
4. 11:15~11:40 栃木県の農業用水路におけるミヤコタナゴおよび産卵母貝の生息状況と繁殖補助の効果
○酒井忠幸・久保田仁志(栃木県水試)・高橋岳雄(栃木県自然環境課)・上田高嘉(宇都宮大教育)
5. 11:40~12:10 中国経済発展地域における河川の光と影-タナゴ・アユモドキ類から濁度3200FTUまで
○鹿野雄一・佐藤辰郎・島谷幸宏(九大工)・中島 淳(福岡県保環研)・北村淳一(三重県新博)
  12:10~13:25 <昼食>
6. 13:25~13:50 島根県に生息するミナミアカヒレタビラ:生態研究を経て地域と連携した保全活動に至った経緯と今後の展開
○鴛海智佳(ミナミアカヒレタビラ研究会・NPO法人流域ネット)
7. 13:50~14:20 タナゴ類も棲める河川・水路を目指した九州における整備事例
○中島 淳(福岡県保環研)・鬼倉徳雄(九大農)
  14:20~14:30 <休憩>
8. 14:30~15:00

流水生態系におけるタナゴ類の現状と具体的保全策と実践および将来戦略
○北村淳一(三重県新博)

9. 15:00~16:00 総合討論
司会:北村淳一,コメンテーター:森 誠一・萱場祐一・西尾正輝

シンポジウムの要旨
現代の沖積平野の陸水生態系を構成する河川や湖沼,池,農業用水路は,ここ50年の人間の社会活動によりその物理環境は大きく改変された.その結果,その物理環境の構造的な多様性は失われ,それに依存してきた淡水生物の生物多様性もまた減少した.その中で,これらの沖積平野の特に地形勾配の平坦な陸水域に主に住む淡水生物として,コイ科タナゴ亜科魚類とイシガイ科の淡水二枚貝類がいる.タナゴ類は,卵を生きたイシガイ科二枚貝類の鰓内に産み込み,子は卵黄を吸収し終えるまで貝内で過ごすという特徴的な産卵様式を持つ.一方,淡水二枚貝類は,その幼生期の一部を淡水魚類に寄生して過ごす.この様に,タナゴ類とイシガイ科二枚貝類は,陸水域の物理環境だけでなくその生態系の構成種とも密接に関わり合いを持っており,いわば地形勾配の平坦な陸水域の指標種となりえる.そのタナゴ類とイシガイ科二枚貝類は,現在ではほとんどの種において絶滅が危惧されている.
タナゴ類やイシガイ科二枚貝類は生息環境特性からみると止水生と流水生に分かれ,湖沼では両タイプが生息するが,面積の小さい池では主に止水生の種のみ生息し,河川では種ごとに止水域(一時水域のたまりを含む)あるいは流水域に分かれて生息する.主に止水生の種が生息する池では,その生態の情報が蓄積され保全の理論や実践が比較的進んでいるが,流水生の種が生息する河川や農業用水路においては,その生態の実体をつかみつつある状態である(以上,北村,2008;根岸ほか,2008参照).
そこで本シンポジュウムでは主に流水生の種が生息する河川の氾濫原や小河川および農業用水路に焦点をあて,その現状と最新の生態的な知見,および実践的な保全活動を紹介し,流水域の持続可能な環境保全理論と将来に向けた保全戦略の構築を目指したい.

連絡先: 北村淳一
〒514-0006 三重県津市広明町147-2 三重県立博物館
TEL:059-228-2283 FAX:059-229-8310
e-mail:kitamura@bio.sci.toho-u.ac.jp
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