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魚類学雑誌, 15(1): 39-41. 会記より |
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日本の魚類研究は既に19世紀の中期に始まり,かつては本草学的の範囲に止まっていたが,19世紀になって,欧米諸国の魚学者の指導協力により次第に魚類学的研究に移り,その結果,日本の魚相が他国に比しいかに豊富であり,また複雑性をもっているかが,世界的に紹介されたのである.これらの刺激によりその後日本の魚類研究は,日本の魚類学者の先輩により,独自的に進められ,多くの業績が世界に発表紹介されたのである.翻って日本の他の動物界の研究
発達の経過を顧みると,既に魚類の場合と同じような道を辿ってきたが,現在は哺乳動物学会,鳥類学会,爬虫両生学会,昆虫学会,貝類学会など,それぞれの分野において,学会組織のもとに多くの研究者が先輩と協力してその研究を進めているが,独り魚類の研究に限りかかる組織がなかったことは,むしろ時代に即応せざる現状であるともいえよう.もっとも一般大衆を対照としての魚類の研究や発表機関は「魚の会」が昭和21年から発足し,それによって魚類学雑誌が発刊されていたのである.元来,日本の国情として魚類が純学問的研究の対象として重要なものであるばかりでなく,魚類が人生と直接関係ある蛋白食料資源としての重要性をもつため,また日本の水産業界の最も重視される関係上,その研究が他の動物群より遥かに重視さるべきであるため,若き学士は,魚類の研究に対して一層深い関心をもって来られたのであろう.それらに原因して魚類のあらゆる分野の研究が必要となり、魚類の分類,形態,組織,発生などはもちろん,遺伝,病理,生理,生化学など,あらゆる分野の研究が進み,今やその研究者は千余名に達している.この盛んな研究熱は必然的に学会の設立を促したので,その声が国内に高くなったことは,むしろ時期の遅かったと考えられる.かくして,必然的の声として多くの研究者からの要求された日本魚類学会は遂に昭和43年4月3日に創立されたが,僅か数ヶ月にして450余名の新会員が入会され,年四回の機関誌の発刊が望まれている.もちろん,本学会としてはなるべく多くの機会を活かし,会員各位の研究発表はもちろん,文献や標本などの交換を海外の同志にもとめ,単に日本国内において若き学徒の研究指導啓蒙に努力するばかりでなく,国際的にも魚類研究に貢献するよう,全会員は協力一致進んでいる.かかる多数の会員各位が自発的に本学会の設立を希望され,自ら立って協力されておられることは同慶の至りである.われわれは将来における本学会の抱負と責任とを心に深く銘じなくてはならない.ここに日本魚類学会の設立に際し,その将来に関心のある方々の大なる御支援と御協力とを心から御願いする次第である. 1968年8月7日 日本魚類学会会長 岡田弥一郎
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日本魚類学会設立の経過 |
戦後いまだ間もない昭和21年,魚類研究に興味を抱く人びとによって魚の会が結成され,一般的な内容を盛った雑誌「魚」が昭和23年8月発刊された.その後,昭和25年8月,魚学の専門誌「魚類学雑誌」が創刊されるに至った.この雑誌は日本魚学振興会から隔月発行の予定で発足したが,一般投稿規定のみがあって,魚の会にも詳細な会則等は決定されなかったので,正式な学会誌にまで成長しないままで存続した.従って,魚の会が編集し,日本魚学振興会発行の学術営業誌とも言うべきものが,本年までの19年間に14巻発行された.そのうちで,第1巻のみが最初の規定通り隔月発行で,2巻以後は数号の合冊が多くなり,近年は1巻が1~2冊で終わる状態となり,購読者数も減少して約200名となった.一方,近年とみに魚学研究が国内外で進展し,研究者も多くなるに従い,魚類学雑誌発行の不振を挽回する必要が強調されるに至った.たまたま第11回太平洋学術会議において多数の外国有名魚学者を迎えたことが刺激となって学会新設の機運は一層熟した.
そこで昨年6月初旬から在京の魚の会有志がしばしば会合し,今後の方針について協議し,さらに魚の会役員および理事に意見を求めた所,学会設立に対してすべて同意した.続いて同様な賛意が魚類学雑誌編集幹事および同委員からも得られたので,10月上旬,近畿大学で開催の日本水産学会秋季大会を機に日本魚類学会設立準備会を開き,学会の規則その他について詳細審議した.その際の決議によって,本学会設立のための実行委員会を在京有志によって結成し,学会設立に必要な事務を推進することとなった.その後,実行委員会によって会員の募集と登録および評議員,初代会長の選挙などの手続きが順次なされた.そして昭和43年3月22日,本学会設立準備が完了と同時に準備委員会は解散した.このとき,会員総数は330名(現在は約450名)となり,初代会長は岡田弥一郎氏,評議員は下記の32名が決定した.つづく4月3日に日本大学農獣医学部において日本魚類学会設立総会が開催された.設立総会には約50名出席し,まず岡田弥一郎会長の本学設立の経緯と趣旨の説明などがあり,それに引き続き学会諸規定についての審議と証認があって,日本魚類学会が正式に発足することとなった. なお,本年6月初旬,本会の規定にもとづき次期(1970-1971)会長の選挙と名誉会員の推薦投票が行われ,それぞれ松原喜代松氏と田中茂穂氏が決定した.
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学会役員 |
会長 岡田弥一郎:次期会長 松原喜代松 編集委員 黒沼勝造*・日比谷 京・加福竹一郎・中村守純・尾崎久雄・上野輝弥 庶務幹事 石山礼蔵*・阿部宗明 会計幹事 高木和徳*・安田富士郎 (*印は委員長または常任理事) 評議員(北海道地区)疋田豊彦・小林喜雄・上野達治(東北地区)佐藤隆平(関東地区)阿部宗明・檜山義夫・石山礼蔵・加福竹一郎・川本信之・黒沼勝造・中村守純・岡田弥一郎・高木和徳・上野輝弥(中部地区)本間義治・田村 保・上柳昭治・山本時男(近畿地区)原田輝雄・岩井 保・松原喜代松・松井佳一・鈴木 清(中国・四国地区)蒲原稔治・松井 魁・木戸 敏・落合 明・高井 徹(九州・沖縄地区)道津善衛・今井貞彦・冨山一郎・内田恵太郎 |