以下の答申は2005年9月22日に開催された2005年度第1回評議員会に議案として提出され、承認が得られました(2005年9月30日瀬能付記)。
2005年9月2日
日本魚類学会
会長 西 田 睦 殿
標準和名は、日本において、ラテン語で表記される学名の短所を補う便利なものとして、対象となる生物やその関連分野の研究の進歩や普及、教育に大きく貢献してきました。学術雑誌や専門書はもちろんのこと、博物館や水族館、動物園での展示、図鑑を初めとする普及図書、さらには学校の教科書にいたるまで、様々な場面で広く使用されています。
日本産の魚類に標準和名が体系的に適用されたのは、1913年に刊行されたJordanらによる"A catalogue of the fishes of Japan"が最初です。著者のひとり田中茂穂によれば、その選定にあたっては、一般性の高い地方名が尊重され(例えば海産魚ならば東京魚市場、淡水魚ならば琵琶湖沿岸での呼称)、地方名がまったくない場合には新たな名称が与えられました。当時、日本産魚類の総種数は1230種でしたが、その後の分類学の発展に伴い、未記載種や日本初記録種が発見されるなどして、2000年に刊行された「日本産魚類検索: 全種の同定、第二版」(中坊徹次編、東海大学出版会)に収録された魚類は3863種に達しています。しかしながら、Jordanらの目録以降、2600種もの魚類に新たな標準和名が提唱されてきたにもかかわらず、命名に際してのガイドラインすら整備されないまま今日に至っています。
そこで2004年度第2回日本魚類学会標準和名検討委員会(2004年12月18日)においてこのことについて議論した結果、まずは標準和名を下記のように定義し、当学会の基本的方針とすることをここに答申します。
日本魚類学会
標準和名検討委員会
委員長 瀬 能 宏
記
【定義および対象範囲】
標準和名は、名称の安定と普及を確保するためのものであり、目、科、属、種、亜種といった分類学的単位に与えられる固有かつ学術的な名称である。
【起 点】
日本産の魚類の標準和名は、原則として「日本産魚類検索: 全種の同定、第二版」(中坊徹次編、東海大学出版会、2000)を起点とする。
【使用範囲】
標準和名は自然科学、教育、法律、行政等、分類学的単位を特定し、共通の理解を得ることが必要な分野での使用が推奨される。ただし、それは通俗名(方言や商品名等)の使用を制限するものではない。
【補 足】
標準和名のない外国産魚類については、命名に関わるガイドラインの策定と合わせて引き続き議論を行うものとする。また、差別的名称については別途答申する。
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