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種の保存法指定種および文化財保護法の天然記念物
アユモドキの保全に関する意見書(2016年4月28日)
 
環境大臣 丸川 珠代 殿
文部科学大臣 馳 浩 殿
   時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より自然環境及び文化財の保全にご尽力を賜り誠にありがとうございます。
 およそ40億年前に地球に生命が誕生して以来、5回の生物の大量絶滅があったと言われており、現代は、第6の大量絶滅時代と言われています。現代の大量絶滅は、人間活動による影響が主因とされ、その速度は著しさを増しています。
  2010年5月に生物多様性条約事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)」では、生物多様性を構成する生態系、種、遺伝子のすべてについて、損失が継続しており、損失を引き起こしている直接的な要因として、生息地の損失と劣化が指摘され、このまま損失が続き、生態系が「ある臨界点」を超えると、生物多様性が劇的に損なわれ、それに伴い広範な生態系サービスが失われる危険性が高いと警鐘が鳴らされました。
 同年10月に開催された生物多様性条約第10回締約国会議で世界が合意した愛知目標の12では、「2020年までに、既知の絶滅危惧種の絶滅が防止され、また、それらのうち、特に最も減少している種に対する保全状況の改善が達成、維持される」ことが求められています。
 2013年2月に環境省が発表した第4次レッドリストでは、評価対象となった約400種の汽水・淡水魚類のうち42%が絶滅のおそれのある種に選定されました。この割合は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類等の他の分類群をしのいで非常に高いものとなっています。
 さらに、2015年11月に改訂されたIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストは、国際的な基準に基づく評価の結果、アユモドキを絶滅危惧種(CR)という、絶滅のおそれの最も高いランクに記載しました。
 アユモドキは、東アジアモンスーン気候下にある我が国の特に水田周辺の生態系で人間活動と共生してきた学術的にも貴重な淡水魚ですが、伝統的な農業の衰退や土地利用の改変、開発、外来種の影響等の結果、その存続は今や風前の灯となっています。
 今般、京都府亀岡市において計画されている京都スタジアム(仮称)は、国際的にも希少であり、日本国内の3カ所(岡山県に2カ所、京都府亀岡市に1カ所)にしか生息しておらず、特に保全の必要性が高い種とされるアユモドキの生存に脅威を及ぼすものと考えられます。
 以上の現状を踏まえ、私たちは、世界的に貴重であり、学術的に価値があり、特に高い優先度で保全すべき種とされるアユモドキの保全のために、同魚種を保全すべき種に指定している種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)および文化財保護法の所管官庁である環境省および文部科学省に対して、下記の通り要求致します。

1)
 アユモドキは、亀岡市の河川氾濫原湿地生態系や水田耕作等による湿地の環境を利用し、適合した特異な生活史を持つために、安易な移植や人為的な生息地の造成では十分な効果が保障されていない。まして新たな造成地で永続的な繁殖を期待することは困難であることから、何よりも野生の環境下で生息する場所を確実に維持・改善した上で、生息地の造成や増殖は行うべきものである。(環境省および文部科学省)
2)
 天然記念物であるアユモドキは、世界的に貴重で、学術的に価値があり、特に高い優先度で保護すべき魚種である。予定されている京都スタジアム(仮称)を含む都市公園整備計画は、文化財保護法第125条に規定される天然記念物の「その保存に影響を及ぼす行為」に該当すると考えられる。将来にわたり当該種の存続が学術的かつ社会的に保障されないかぎり、天然記念物の「現状変更の許可」はすべきでない。(文部科学省)
3)
 アユモドキをはじめとする様々な水生生物と共存してきた農業の形態(灌漑ダムの操作等を含む)を維持し、地域の人々の営みと湿地の生態系の保全を両立させていくため、地域住民や専門家を含めた協議会を行政が設置し、同協議会が将来にわたり継続的に保全できる社会的な仕組みづくりを、合意形成を図りながら段階的に進めていくことができるように地元自治体や関係者と共に取り組むべきである。(環境省および文部科学省)
4)
 里地里山などの二次的自然環境や河畔環境のように変動・攪乱が大きい環境に生息・生育する攪乱依存種(アユモドキ(CR)など)では、継続的なモニタリングを含む長期的な視点に立った保全施策の実施が特に重要となる。環境省が設置した「淡水魚保全のための検討会」の「二次的自然を主な生息環境とする淡水魚保全のための提言」を尊重し、岡山県と京都府におけるアユモドキの的確な保全方策を検討・実施するための調査を行い、提言に盛り込まれた内容に早急に取り組むべきである。(環境省および文部科学省)
5)
 建設予定の京都スタジアム(仮称)のみならず、亀岡駅北地区区画整理事業の造成に対しては「南丹都市計画に係る区域区分の変更に対する環境大臣意見(平成26年1月21日)」が提出されている。環境省意見【[1]専門家会議の意見を実施計画に反映すること、[2]実施計画が策定されるまで駅北地区及びその周辺の自然環境の保全に努めること、[3]事業実施による影響に配慮すること、[4]工事中や事業後にモニタリングを実施すること等】の4項目を条件として、南丹都市計画に係る駅北地区の区域区分変更が認められた。区画整理事業の造成は、専門家会議の意見を十分に反映した形で進められているのか確認すべきである。 また、京都スタジアム(仮称)建設に関わるアクセス道路などの付帯施設によるアユモドキに対する影響も慎重に考慮する必要がある。場合によっては、これらの付帯施設工事の途上でアユモドキの存続にとって致命的な影響が生じかねない。このような付帯する関連事業の複合的な影響も含めてアユモドキをはじめとする生態系に及ぼす環境影響評価を厳密に行うべきである。アユモドキの生息地に影響を及ぼすおそれのある工作物の設置や土地の造成は、生息に深刻な影響を及ぼし、これまでの地元の保護活動を無に帰す結果を招きかねない。そのようなことにならないように、所管官庁として事業者を指導すべきである。(環境省および文部科学省)

以上

意見書賛同団体:
(公財)世界自然保護基金ジャパン、(一社)コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、(公財)日本自然保護協会、日本生態学会自然保護専門委員会、日本生態学会近畿地区会自然保護専門委員会、日本魚類学会、(公財)日本野鳥の会、日本野鳥の会京都支部、全国ブラックバス防除市民ネットワーク(ノーバスネット)、(公財)日本生態系協会、認定NPO法人 宍塚の自然と歴史の会(代表及川ひろみ)、小豆沢勤労者つりの会、呉勤労者釣りの会、(NPO)日本国際湿地保全連合、(NPO)秋田水生生物保全協会、阿武隈生物研究会、生駒の自然を愛する会、(NPO)エコパル化女沼、岡山淡水魚研究会、香川淡水魚研究会、(NPO)かごしま市民環境会議、霞ヶ浦チャネルキャットフィッシュバスターズ、亀成川を愛する会、外来魚問題連絡会in北海道東北ブロック、近畿大学バスバスターズ、(NPO)くすの木自然館、佐渡在来生物を守る会、滋賀県大BASSER'S、(NPO)シナイモツゴ郷の会、城北水辺クラブ、(一社)水生生物保全協会、(NPO)生態工房、生物多様性研究会、生物多様性保全ネットワーク新潟、ゼニタナゴ研究会、田沢湖生物研究会、土浦の自然を守る会、(NPO)鶴岡淡水魚夢童の会、手賀沼水生生物研究会、東海タナゴ研究会、東京勤労者つり団体連合会、ナマズのがっこう、琵琶湖外来魚研究グループ、びわ湖サテライトエリア研究会、琵琶湖を戻す会、ブラックバス問題新潟委員会、ぼてじゃこトラスト、水辺づくりの会 鈴鹿川のうお座、(NPO)水辺と生物環境保全推進機構、深泥池水生生物研究会、三ツ池公園を活用する会、(財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団、宮城大学自然研究部、淀川水系イタセンパラ研究会、渋谷勤労者つりの会、近江ウェットランド研究会

以上、56団体。

<本件に関する連絡先>
志村智子(日本自然保護協会 03-3553-4103)
岩崎敬二(日本生態学会近畿地区会自然保護専門委員会 0742-41-9591)
森 誠一(日本魚類学会自然保護委員会 smori@gifu-keizai.ac.jp)
名取洋司(コンサベーション・インターナショナル・ジャパン 03-5315-4790)
小林 光(全国ブラックバス防除市民ネットワーク nobass3@gmail.com)