日本魚類学会自然保護委員会 日本魚類学会トップページ
自然保護委員会の概要  
ガイドライン  
モラル  
シンポジウム  
提案書・意見書  
資料・書籍  
魚雑掲載記事  
沖縄県西表島浦内川からの取水に関する質問状(環境大臣,竹富町長宛)
(2015年6月1日)
 
  平成27年5月29日  
環境大臣  望月義夫 殿
竹富町町長 川満栄長 殿
日本魚類学会 自然保護委員会
委員長 森 誠一
   沖縄県西表島の浦内川は、主流長わずか18.8 kmの河川ですが、日本最大級の亜熱帯生態系を有し、環境省によって日本の重要湿地500のひとつに選出されています。また流域は河口部を除き西表石垣国立公園の特別地域に含まれ、源流部は特別保護地区に指定されています。
 浦内川からは、これまで約400種の魚類が記録されており、日本一、種の多様性が高い河川です。またそこにはイリオモテヤマネコと同ランク(絶滅危惧IA類)の魚類の絶滅危惧種が23種も生息しており、このうちウラウチフエダイ、シミズシマイサキ、ヨコシマイサキ、ニセシマイサキ、およびカワボラの5種は、今回取水が予定されている汽水域上端からマリウドの滝までのわずか1.5kmの渓流域(淡水域)を主な生息地としており、本来、人の立ち入りも制限すべき重要な流域です。
 ところが、最近の新聞報道等によれば、この流域に取水ポンプと導水管を敷設し、日量500トンの取水を行う計画が進行中とのことで、すでに環境省から許可がおり、町議会において工事請負契約が可決されたということです。浦内川が日本のみならず世界に誇る多様な希少魚類の宝庫であるのは、ひとえに同川の豊かな水量に支えられているものです。もし、当該計画の工事や事後の維持行為によって生息環境が過度に破壊・劣化することや、取水によって水量が一時的にでも過剰に減少することがあれば、ただちに多くの魚類のみならず淡水性生物の生息に深刻な悪影響を与えることは明らかです。“世界に誇る多様性の高い魚類群集を育む浦内川”からの取水は、淡水生態系に多大なダメージを与える可能性が極めて高く、もし地元や日本国がそのかけがえのない生物多様性を保全する姿勢に乏しいとなれば、西表島を含む「奄美・琉球」の世界自然遺産登録において致命的なマイナス要因となるでしょう。
 かつて石垣島の荒川では、取水による影響によって多くの絶滅危惧種が姿を消した事実もあります。日本魚類学会自然保護委員会では、現在足早に進められようとしているこの浦内川からの取水計画についても、その環境に対する影響を深く懸念しております。そこで、まず以下の事項について、現状や貴職のご意向を確認いたしたく、この質問書をお送りする次第です。

質 問

  1. 浦内川に生息する魚類の絶滅危惧種の重要性について、どのようにご理解、ご認識しておられるでしょうか。また、これまで地域住民に対して、絶滅危惧種の保全に関する啓発をどのように行ってこられましたか。今後の予定も含めて、ご教示ください。
  2. 当該の取水事業やそれに伴う工事が、魚類等、自然環境にどのような影響を与えるかについて、調査、予測、影響評価を行いましたか。またそれらを公表されましたか。それらの結果について、学識経験者にヒアリングし、意見を求め、事業計画に反映されましたか。
  3. 浦内川からの取水以外の代替策は検討されましたか。例えば、浦内川以外の複数河川から少量ずつを分散取水することは、浦内川やその他河川に生息する絶滅危惧種の保全に有効と考えられますが、そのような案を検討されましたか。
  4. 取水施設の工事のために、資材搬入路の確保などの周辺域の環境改変、そして河川形状の改変などが想定されますが、それらによる生息環境への影響をどのように評価し、また対策を行う予定でしょうか。
  5. 新聞報道によれば、渇水時に1日500トンの取水を行う計画とされていますが、取水量の算出根拠をお示しください。
  6. 取水は、新聞報道にあるように、干ばつ時の緊急対策として、異常渇水時にのみ行う計画でしょうか。それとも、今後、水需要が増大した場合には、渇水とは無関係に恒常的な取水を行うことも想定されているのでしょうか?
  7. 工事と取水が魚類等生物に与える影響を監視し、影響が見られた場合にはただちに対策を講じる必要があります。そのための監視および対応体制について、ご説明ください。
  8. あってはならないことですが、もし工事や取水による影響によって浦内川から絶滅種が生じた場合、その責任の所在はどこに帰すべきか、お考えをお示しください。
  9. もし本取水計画の立案・決定過程において、魚類等、環境への影響を十分に検討せず、過小評価を行っていた可能性があるとすれば、この工事を一旦停止し、取り返しのつかない深刻な事態に陥ることを避けるべきだと考えますが、この点について、現状の認識と今後の予定について、ご説明ください。
  10. 今後、環境省、学術団体、保全団体等が、本件に対して果たすべき役割について、お考えをお聞かせください。
 なお、ご多忙のところ大変申し訳ありませんが、火急の案件につき、平成27年6月8日までに書面にて回答くださいますようお願い申し上げます。また、本質問状の全文を当学会ウェブページで公開しておりますことを申し添えます。
 
<本件に関する問い合わせ先・回答返送先>
日本魚類学会 自然保護委員会 委員長 森 誠一
〒503-8550 大垣市北方町5-50
岐阜経済大学地域連携推進センター
電子メール:smori@gifu-keizai.ac.jp