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山梨県内漁場における第五種共同漁業権魚種に関する緊急要請
 
 
平成25年4月12日
山梨県知事  横内正明 殿
日本魚類学会 会長 木村 清志

 仲春の候,ますます御健勝のこととお慶び申し上げます.平素は格別のご高配を賜り,厚く御礼申し上げます.

 日本魚類学会は,人間活動に伴う環境の悪化など魚類の生息を脅かす原因の究明やその結果の周知・公表を通じて,水域における生物多様性の保全を重要な使命の一つとしています.
 平成26年1月の山梨県における漁業権免許切り替えにあたって,関係者からの要望意見を聞き取りし策定中である漁場計画につき,本要請書を提出させていただきます.
 現時点での漁場計画素案には,これまでと同様,しかも何ら合理的な説明がないままに,3湖においてオオクチバスを漁業権魚種とするとなっております.この素案に対して,当学会は下記の理由から,漁業権魚種としてオオクチバスを漁場計画に記載しないことを強く要請いたします.

要請の理由
  1. 現在,山梨県は最優先事項として,多くの人々の望みでもある「富士山の世界遺産」登録に向けて県民をあげて活動されています.その活動の一環として防除すべきオオクチバスは,数ある外来種のなかでも国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会(SSC)が選定した「世界の侵略的外来種ワースト100」の一種であり,日本国内では外来生物法の規定する「特定外来生物」に指定され,国際的にも国内的にも積極的に防除する対象魚種として,学術的・行政的な評価・位置づけにあります.にもかかわらず,そのような魚種を活発に事業放流し,これを有効利用として認識している状況は,世界遺産登録をめざす地域として全くそぐわず,また日本を代表する景勝地・富士五湖地域の観光発展においても極めて不適切といえます.
  2. 漁業権のある湖において,オオクチバスは外来生物法上の生業の維持のための特例として湖を飼育施設とみなし,「飼育」や「運搬」が認められており,これに基づき増殖義務としての放流が行われています.また同時に,現状のオオクチバスの持ち出し禁止や逸出防止策による適正管理が義務付けられています.これらの実施体制および効果について検証された内容につきお示しください.法の主旨に照らし「特例」として認定されている以上,1尾たりとも逸出させない厳しい対応の継続が必須なのは自明です.
  3. 生物多様性保全への影響において,特に侵略性の高いオオクチバスの増加による多大な負荷が考えられます.現状に即した形で,山中湖,河口湖,西湖の生態系保全に関する指針を検討し,今この時点で,少しでも負荷の軽減を図ることが切望されます.とりわけ富士五湖のみに生息し,近年,山中湖・河口湖からの生息確認記録が途絶えているこの地域固有のコイ科魚類ヤマナカハヤの絶滅回避や,西湖で再発見されたクニマス(国鱒)の保全に照らして考えると,オオクチバスを漁業権魚種として積極的に利用し続けることが,ヤマナカハヤやクニマスの存続に対して直接・間接に負荷を与えることが想定され,国の生物多様性基本法(平成20年法律第58号)に基づく「生物多様性国家戦略2012-2020」にも反します.当然ながら,ヤマナカハヤやクニマスは,名峰・富士山とともに,我が国を代表する貴重な地域自然資源ということができます.
  4. 3湖におけるオオクチバス漁業権魚種認可は,前記法律の本来的な主旨に明確に反することから,「生業の維持」のためにあくまでも「特例」として認められているものです.したがって,早々に法律の本来的な主旨に基づく漁業管理の構築や,バス依存からの脱却の方向性が望まれるものです.なお,県ホームページにも記されている前回免許時の「オオクチバス漁業権に関する経緯と県の考え方」においては,「積極的にオオクチバスの漁業権を設定すべきではない」とあります.しかしながら,今回の漁場計画素案では現状是認となっており,この方針変更に関し合理的な説明をお示しいただけますと幸いです.
貴殿におかれましては,本要請に対する可否についてご検討のうえ,平成25年4月30日までに,書面にて具体的な理由をもってご回答をいただけますようお願い申し上げます.また,本要請の全文を当学会ウェブページで公開しております旨を申し添えます.

<本件に関する問い合わせ先・回答返送先>
日本魚類学会 自然保護委員会 委員長 細谷和海
〒631-8505 奈良市中町3327-204
近畿大学農学部 環境管理学科 水圏生態学研究室
Tel:0742-43-6195/Fax:0742-43-1593