平成21年3月12日
国土交通大臣 金子 一義 殿
環境大臣 斉藤 鉄夫 殿
水産庁長官 山田 修路 殿
文化庁長官 青木 保 殿
日本魚類学会会長 西田睦
イタセンパラ(コイ科タナゴ亜科)は,淀川水系と濃尾平野,および富山平野に分布する日本固有の淡水魚で,環境省のレッドリストにおいて,ごく近い将来における野生での絶滅の危険性がきわめて高い絶滅危惧IA類と評価されています.本種は種の保存法により国内希少野生動植物種に指定され,また国の天然記念物として種指定を受けており,学術面のみならず文化財としても貴重な生物であると位置づけられています.平成8年度以来,環境省・文部科学省・農林水産省・国土交通省の共同でイタセンパラの保護増殖事業が進められているところです.
淀川水系はかつてイタセンパラの最大の生息地であり,また本種は「淀川のシンボル・フィッシュ」として位置付けられてきました.しかしながら平成18年に最後の大規模な生息地であった城北ワンド群で本種が確認されなくなり,周辺環境も著しく悪化したことから,日本魚類学会は平成18年12月25日付で,「淀川水系におけるイタセンパラの保護に係る緊急要請」を関連省庁に提出し,緊急かつ実効的な保全対策をお願いしました.その後,関係諸機関の努力にもかかわらず,平成20年まで連続3年間,イタセンパラが確認されず,淀川下流域での本種の生息はきわめて厳しい状況に至っています.長年にわたり各方面から注目され,保全対策が積み重ねられてきた生息地においてイタセンパラが衰退・消失したことに対し,われわれ学会自然保護委員会は,大きな失望感とともに,今後の抜本的な淀川水系の環境改善をともなう新たな保全策の必要性を強く感じているところです.
イタセンパラの消失は,これまで長年にわたって行われてきた河川管理の方策に直接・間接に起因し,淀川水系本来の生態系の劣化,在来群集の衰退の延長線上にある象徴的な事柄だと理解されます.私たちは,国土交通省淀川河川事務所を中心とした近年の環境復元のための取り組み,そして上記保護増殖事業における環境省ほか各省庁の取り組みを肯定的に評価しています.しかしイタセンパラの自然環境での復活を成し遂げるために,今後さらにイタセンパラとその生息環境,ひいては淀川水系本来の生態系の保全・復元に取り組んでいただきたく,ここにあらためて強く要請する次第です.
なお,貴省(庁)におかれましては,特に別紙の4点に留意いただきながら,本要請についてご検討のうえ,平成21年5月末日までに具体的に書面でのご回答をお願いいたします.また,貴省(庁)への提出と同時に,本要請の全文を当学会ホームページで公開しておりますことを申し添えます.
淀川水系におけるイタセンパラの保護と生息環境の保全のための重要課題
- 淀川下流区間の環境改善と外来種駆除
近年までイタセンパラの象徴的生息場所であった城北ワンド群の環境復元を是非進めていただきたいと思います.これには,水流と水位変化(攪乱)の復活,および外来種(水生植物,魚類)の駆除が必須です.対症療法的な方策に合わせ,淀川大堰の施設改善や運用方法,淀川の流量管理,高水敷利用のあり方,大規模遊水池の復活などを含めた長期的な流域管理についても是非とも十分な検討をお願いします.
- 淀川上流区間の環境改善と河床低下の抑制
楠葉地区の新設ワンド群をはじめ,現時点でも河川の営力によってイタセンパラや二枚貝の生息環境を創出しうる場所において,実効的な方策に集中的に取り組んでいただくようお願いします.同時に,近年本川および木津川・宇治川下流部で進んでいる河床・水位低下の原因を解明し,ワンドやタマリ環境の長期的な保全に取り組んでいただくようお願いします.
- 保護下のイタセンパラに対する管理の徹底
淀川から移植・導入された2つの個体群が大阪府内の保護池に存在しますが,そのいずれも,将来にわたる系統保存と野生復活のために非常に重要です.それらに対する永続的で責任ある管理体制を確保するとともに,密漁・盗難対策も十分に行っていただくようお願いします.
- 木津川個体群の調査と保全
かつて木津川のワンド・タマリにも多数のイタセンパラが生息していましたが,環境悪化や密漁によってほとんど姿を消してしまいました.しかし,淀川水系の本種の復活のために,木津川の残存個体群は,保護池における個体群と同様かそれ以上に重要な意味をもちます.木津川水系での継続的な調査と生息環境の保全を進めていただくようお願いします.
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