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「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例要綱案」に対する意見書  
 

2002年7月18日

「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例要綱案」に対する意見

滋賀県知事 國松善次 殿

日本魚類学会会長 松浦啓一

 我が国最古の湖で世界有数の古代湖でもある琵琶湖は、数多くの固有種を含む世界的にも貴重な生態系を宿し、その恵みは地域の伝統的な生活文化を豊かに育んできま
した。この素晴らしい財産を祖先から受け継ぎ後世に伝える責務は、人間と自然との望ましい関わり方が問われる現在、ますます重くなってきています。
 残念なことに、琵琶湖の生態系は既にその本来の姿を失いつつあります。過去数十年にわたる過大な開発行為によって水生生物の揺り籠とも言うべき内湖や湖岸の環境が荒廃したところに、オオクチバスやブルーギルという外来魚が侵入・激増して追い打ちをかけたのです。これらの外来魚が在来種や生態系に甚大な影響を与えたことは、貴県や研究者による研究・調査の結果からも、国内各地さらには海外の事例からも、論理的に推測されます。
 貴県は、これらの外来魚による悪影響をいち早く看破し、全国に先駆けて駆除作業に着手されました。しかし外来魚の激増は抑制されず、多くの在来魚種が急激に減少し、貴県レッドデータブックでもその多くが掲載される事態にあること、憂慮に堪えません。こうした緊急の事態を受け、貴県では琵琶湖の生態系を保全・回復することを目的とした諸施策の一環として外来魚駆除事業を拡大し、さらに積極的な取り組みをされていることに対し、敬意を表します。
 水産庁は、ブラックバス(オオクチバスやコクチバスの総称)やブルーギルの急激な分布拡大の主因は意図的な無断放流にあるとして、全国の都道府県に対して両種の自然水域への放流抑止を求め、現在ではほぼ全国的に両種の移殖を禁じる規則が施行されています。しかし、この規則では、釣った魚をその場で再放流するキャッチアンドリリースや、魚を生かしたまま持ち運ぶことまでは禁じていないこともあり、密放流の横行は止まらず、移殖禁止の規則そのものが空文化しかねない事態になっています。そこで、一部の都道府県では、釣り上げた外来魚の再放流を禁じる規則を制定し、過熱したバス釣りブームの沈静化を進めています。
 今般、貴県は、琵琶湖の生態系の保全・回復をめざすという基本的方針に沿って、過度の自由がもたらす弊害を抑制すべくレジャー利用全般を適正化するために、琵琶湖適正利用懇話会に委嘱して「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例要綱案」を取りまとめられました。そこでは、これまで黙認されてきた釣りの行為にも言及がなされ、「ブルーギル・オオクチバスその他の規則で定める外来魚を琵琶湖で採捕したときにはこれを琵琶湖に放流してはならない」という再放流の禁止規定が盛り込まれています。私たちは、外来魚問題に関してそれを利用する人間の側にも抑制を求める姿勢を明確に示したのこの提案を支持し、その施行がバス釣りブームの沈静化にも貢献することを期待します。また、琵琶湖のレジャー利用の適正化というすぐれて公共性の高い課題に向け、特定の利用者に応分の負担を求めることで社会的軋轢の合理的解決を求める貴県の英断を高く評価するものです。
 ところで、上記の条例要綱案に関するパブリックコメント募集に対しては、「自由」を奪われる立場、とくにバス釣り人たちからの反対意見が殺到していることは、マスコミ報道でも伝えられています。一方、要綱案に対する賛同の意志は、わざわざコメントとして提出するまでもないことであり、意見の数にはなかなか反映されません。今回、日本魚類学会会員1400名の総意を代表してこの意見書を提出するのは、「再放流禁止は否」が世論全体における多数意見であるかのような発表・報道がなされる可能性を憂慮したからでもあります。幸い、貴県民の外来魚問題に対する総意は、過去の世論調査の結果によって既に明白であり、駆除の必要性は大多数の県民の支持するところとなっております。したがって、今回の意見募集の結果は、意見の類型別の多寡ではなく、琵琶湖の生態系の保全・回復をめざす貴県の基本的方針に総合的に照らして、要綱案の規定が適切であるか否かを問うための判断材料として位置付けられるべきものです。また、提出されたさまざまな意見は、生物学や生態学、社会心理学、環境社会学、環境経済学などの専門的な視点から、冷静に判断されるべきだと考えます。本会としては、再放流禁止は駆除への実質的な貢献のほか、外来魚問題の緩和に向けた釣り人の協力意識を高め、さまざまな社会的軋轢が顕在化しているバス釣りブームそのものを沈静化する観点からも、有効な方法であると判断しており、この見解を貴県にお伝えする次第です。
 また、最後になりましたが、水上バイクを含むプレジャーボートの水中騒音や油漏れによる水生生物への悪影響も、無規制のままで放置することは望ましくないと考えておりますので、この条例要綱案が可及的速やかに採択・施行されることを会員を代表してお願い申し上げます。

 
  < 本意見書についての問い合わせ先 >  
  〒041-8611 函館市港町 3-1-1
北海道大学大学院水産科学研究科育種生物講座 内
日本魚類学会 自然保護委員会
委員長 後藤 晃
TEL 0138-40-5536; FAX 0138-40-5537
E-mail: akir@pop.fish.hokudai.ac.jp
 
 

〒250-0031 神奈川県小田原市入生田 499
神奈川県立生命の星・地球博物館 内
日本魚類学会 自然保護委員会
副委員長 瀬能 宏
TEL 0465-21-1515; FAX 0465-23-8846
E-mail: senou@nh.kanagawa-museum.jp