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京都府亀岡市のアユモドキ生息地における大規模開発に関する緊急要請
 
 
平成25年3月12日
京都府知事 山田 啓二 殿
亀岡市長  栗山 正隆 殿
日本魚類学会 会長 木村 清志

 日本魚類学会は,人間活動に伴う環境の悪化など魚類の生息を脅かす原因の究明やその結果の公表を通じて,水域の生物多様性の保全を重要な使命の一つとしています.このたび,京都府は国の天然記念物であり,「種の保存法」指定種である絶滅危惧IA類の淡水魚アユモドキの生息場所において,専用球技場(大規模スポーツ施設)を建設することを発表しました.京都府および計画地である亀岡市は,このスポーツ施設とアユモドキ等野生生物との「共生」を掲げていますが,本学会は魚類学および保全生物学の専門的見地から,以下のとおり,その実現性に大きな疑いをもつものです.亀岡市の生息地が消滅することは,琵琶湖・淀川水系からアユモドキが絶滅することを意味します.本学会は,水田周辺に維持されてきたアユモドキを象徴とする貴重な湿地生態系の将来にわたる保全と市民社会における活用の観点から,一旦計画を白紙に戻し,科学的調査と合理的判断に基づいて,当地におけるスポーツ施設の建設の妥当性について,再検討いただくことを強く求めます.
  1. アユモドキは東アジアモンスーン気候に適応した淡水魚で,氾濫原環境,またその代替地としての水田周辺環境の急速な消失,改変によって,現在,京都府の1ヶ所(本計画地),および岡山県の2ヶ所に生息・繁殖場所が残るのみとなっており,種の存続が極めて危機的な状況にあります.
  2. 京都府が計画する専用球技場(12.8 ha)は,まさに京都府におけるアユモドキの唯一の繁殖・初期生育場所である水田周辺地域に建設が予定され,重要な初期生育場所である農業用水路の大部分を埋め立て,消失させるものです.これらの直接的,間接的な生息環境の改変は,アユモドキの持続的な生息に甚大な悪影響を与えることは必至です.
  3. 亀岡市は,専用球技場の周辺に3.6 haの「共生ゾーン」を設置し,アユモドキ等野生生物との共生を図ることを,誘致の過程で掲げています.しかし,この「共生」計画は,このような大幅に縮小された整備区域で,アユモドキ等野生生物が短期的また長期的に保全可能かどうかを,専門的,科学的に検討したものではありません.また関係省庁との協議すら行っておらず,市の単なる希望的目標にすぎません.琵琶湖・淀川水系における唯一の繁殖・初期生育場所を大規模に開発するうえで,過去に成功例のない,目標を掲げただけのこのような無計画な手順は,決して看過できるものではありません.
  4. 京都府は,「京都の自然200選」において「アユモドキの生息する灌漑用水路(亀岡市)」を選び,また「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」の指定希少野生生物として,「アユモドキ保全回復事業計画」に基づき,その保全を推進しているところと認識しています.今回,アユモドキの生息地周辺の水田地域が育む貴重な湿地生態系を将来にわたり保全,活用していくために,関係する国,京都府,亀岡市の行政,地域住民,市民,専門家が,広く公平に議論し,今後の賢明な土地・環境利用を推し進めていくことを強く求めます.

なお,貴殿におかれましては,本要請についてご検討のうえ,別紙の4点について,平成25年4月12日までに,書面にて具体的にご回答をいただきたく,お願いいたします.また,本要請の全文を当学会ウェブページで公開しておりますことを申し添えます.

<本件に関する問い合わせ先・回答返送先>
日本魚類学会 自然保護委員会 委員長 細谷和海
〒631-8505 奈良市中町3327-204
近畿大学農学部 環境管理学科 水圏生態学研究室
Tel:0742-43-6195/Fax:0742-43-1593

別紙:公開質問状(京都府知事宛)
別紙:公開質問状(亀岡市長宛)