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京都府亀岡市のアユモドキ生息地における大規模開発にかかる要望書  
  平成27年3月20日  
亀岡市長   栗山 正隆 殿
日本魚類学会
会長 矢部 衞
   平成24年12月に京都府知事が近畿地方に唯一残る淡水魚アユモドキの生息地での大規模スポーツ施設の建設計画を発表して以降、全国の学術団体、自然保護団体、市民団体、さらには環境大臣もが、生物多様性保全の観点から本計画に強い懸念をもち、貴職に宛て、多数の意見書や要望書を提出しております。日本魚類学会もまた、平成25年3月と5月に京都府および亀岡市に意見書を提出しております。この間、京都府と亀岡市は、環境保全対策については、「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)に係る環境保全専門家会議」(以下、環境保全専門家会議)で検討を行い、その意見を十分に聞きながら事業を進めるとしています。一方で、アユモドキ等の生息地周辺では、施設計画地および亀岡駅北地区において都市計画変更が行われ、土地利用の大幅な改変が進められつつあります。さらには、環境保全専門家会議による環境評価に先立って、京都府では本計画について近々に公共事業評価委員会に諮り、事業予算を計上する運びと伺っております。
 日本魚類学会では、公開された環境保全専門家会議の会議録や関係者からのヒアリング等に基づき、環境保全対策に関する議論や検討の動向を注意深く見守ってきたところです。しかしながら、現段階に至るまで、本計画がアユモドキ等多くの希少生物を含む貴重な湿地生態系の保全と両立可能であるという科学的な根拠がまったく示されないまま、慎重さを欠いた形で事業が進行していることに対して、強い懸念を抱いております。また当学会をはじめとする全国からの意見や要望に対して、京都府や亀岡市が真摯に受け止める姿勢を示されていないと見受けられることについても、大変残念に思っております。
 そこで、日本魚類学会は、ここに、下記5点について強く要望いたします。また、時期尚早な公共事業事前評価の実施によって、環境保全専門家会議と府の公共事業評価の仕組みの両方が形骸化されてしまうことのないよう、強く求めるものです。

(1)適切な目標設定 アユモドキ等の保全対策を、「共生ゾーン」の設置等による建設影響の最小化や低減という目標に決して歪小化することなく、確実なノーネットロス、つまり対策効果が影響を十分に代償するか、あるいは環境をさらに改善することを目標とすべきです。アユモドキの生息においては、本流、支流、および農業用水路それぞれにおける好適な環境とそれらを結ぶ水系ネットワーク、そしてそれらを永続的に支えることができるような土地利用形態が必要です。アユモドキ等の個体群の存続に必要とされる地域範囲を明らかにし、その環境保全に向けた明確な意思表示と、それを実現するための根拠ある計画に基づく政策を実施してください。

(2)専門家会議の公開性の確保 環境保全専門家会議における検討方針や検討結果の施策への反映方法を事前に明確にし、十分かつ速やかにそれらを公表してください。残念ながら、これまで環境保全専門家会議での検討内容は、数カ月後に概略が公開されるのみであり、第三者がとうてい検証できない形となっています。その点を危惧し、当学会自然保護委員会が平成26年5月に環境保全専門家会議に宛てた質問状に対しては、事務局より「専門家会議の委員等が(中略)個々の質問にお答えするものではありません」として、回答いただけませんでした。本計画のように、「種の保存法」や「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」など多くの法令と齟齬を生じうる重大な事案に関しては、調査結果や検討内容、および意思決定過程を、第三者が検証可能な形で速やかに公開するべきと考えます(希少生物の生息地情報の詳細を公開するよう求めるものではありません)。なお、専門家会議が、科学的な蓋然性をもってアユモドキ等野生生物の将来にわたる存続を保証できない場合には、今回の建設計画が社会的に認められないことを認識すべきです。

(3)適切な調査検討の期間と内容 一般に野生生物の代替生息地の創成は容易ではなく、十分な基礎調査と試行錯誤を通じた順応的管理が必要とされます。計画発足からわずか4年後の完成を目指すという当初の計画は1年延長され、平成29年度の完成予定と変更されました。しかし、適切な環境評価とそれに基づく対策を実現し、その保全効果を検証するにはあまりに不十分です。まず環境改変を行う前に、適切な調査、検討、および評価ができるよう、計画期間を十分な長さをもつものに設定し直してください。また、「共生ゾーン」の設置による代償措置が、アユモドキ等の永続的な生息を保証するかどうかを、環境改変より前に科学的に検討し、その結論と予防原則に基づいて計画を再検討してください。

(4)保全を前進させる総合的施策 スポーツ施設の建設の有無にかかわらず、琵琶湖・淀川水系のアユモドキの絶滅の危険性は大変高まっています。京都府および亀岡市におかれましては、施設建設に関わる対策のみに保全努力を集中させることなく、従来からの保全活動や調査を発展的に継続させ、保津川流域のアユモドキ個体群の存続性を着実に高める施策を行ってください。もともと河川氾濫原に適応したアユモドキ等の湿地性動植物は、水田周辺に形成された二次的自然環境をわずかな頼りとして生き延びてきたものです。当地を含む都市計画変更に基づく周辺土地利用の大幅な変化は、アユモドキ等にとって、現在新たに生じつつあるきわめて重大な保全上の問題であると認識し、適切な対策を講じてください。

(5)地域社会との真の共生 アユモドキを含む貴重な生物多様性を育む水田・湿地生態系は、国民のかけがえのない財産であり、それを守り、維持してきた地域社会・住民の役割に対して、行政は最大限の理解と謝意のもと、必要な援助を行うべきだと考えます。地域社会に不当な負担をかけるべきではないと同時に、これまでの努力を無に帰すことがあってはなりません。また、土地利用計画にあたっては、治水、利水(水道水源)、交通、また経済性などの観点を総合的に考慮すべきであり、そのためには高度に専門的な検討と判断を要することは論をまちません。今回の妥当性に欠く、拙速なスポーツ施設の建設決定の不備について、京都府と亀岡市は地域に対して真摯に十分な説明を行い、そのうえで、関係する国、京都府、亀岡市の行政、地域住民、一般市民、専門家が、広く公平に議論し、今後の賢明な土地・環境利用を推し進めていくことを強く求めます。

なお、本要望の全文を当学会ウェブページで公開しておりますことを申し添えます。
 
     
<本件に関する問い合わせ先・回答返送先>
日本魚類学会 自然保護委員会 委員長 森 誠一
〒503-8550 大垣市北方町5-50
岐阜経済大学地域連携推進センター
電子メール:smori@gifu-keizai.ac.jp