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ブラックバス問題について  
  大型で肉食性のオオクチバスが在来の水生生物を捕食し、水域生態系に甚大な影響を与えていることは周知の事実です。そのオオクチバスは、1970年代以降のルアー釣りのブームと同調して分布地を一挙に拡大してきました。その背後で無秩序な放流行為が横行していたことは広く認識されています。さらに、北海道・沖縄県以外の全都府県でオオクチバスの放流が禁止されている現在も、結果的に利益・享楽を享受する一部の関係者が根拠のない非論理的なバス無害論を流布し続けており、違法な放流が継続しているのが現状です。すなわち外来魚による取りかえしのつかない生態系破壊が大規模に続くことで、日本の生物多様性の衰亡というきわめて憂慮されるべき事態が生じています。そうした中で、その元凶であるオオクチバスを新たな水域で漁業権魚種として、いわば「公認」する方向性に、我々は非常に強い危機感を抱かざるを得ません。


 我々、日本魚類学会、日本鞘翅学会、日本トンボ学会は、現在一部の水域(芦ノ湖・河口湖・山中湖・西湖)に限定されている北アメリカ原産の淡水魚オオクチバス(ブラックバス)の漁業権魚種認定を、他の水域へも拡大しようとする水産庁の政策転換に再考を促すため、2月8日付けで別添の要望書を農林水産大臣、水産庁長官、北海道および沖縄県を除く各都府県知事、各都府県漁場管理委員会委員長宛に提出いたしましたことをお知らせいたします。

 
  < 下記の文章は,農林水産大臣宛に提出した要望書です. >  
 

平成13年 2月 8日

農林水産大臣
谷 津 義 男 殿

日本魚類学会会長 尼 岡 邦 夫
同学会自然保護委員会委員長 後 藤   晃


今後のブラックバス政策に関する要望書

 貴省所轄の水産庁では、これまでブラックバス類(オオクチバスやコクチバス)を自然水域から駆除する政策を進めてこられました。中禅寺湖や奥只見湖では実際に駆除の効果が明白に認められており、関係者のご努力に敬意を表する次第です。しかるに最近の報道等で、水産庁はこれまでの管理政策を見直し、オオクチバスに対する漁業権を緩和し、公的に容認する水域を一気に増加させる「すみわけ」政策に転換すべく準備中と聞き及び、たいへん驚いております。日本魚類学会は現状での政策転換に反対します。もし、この政策転換が現実になれば、生物多様性条約締結国としての責務を負う我が国において、水生生物の多様性の保全に重大な問題が生じるからです。
 オオクチバスによる日本の在来水生生物に対する食害の深刻さは各地から報告されております。政策転換によって全国に公認釣り場が設置されれば、心ない一部の釣り人などが本種を持ち出し、許可水域以外の自然水域に移殖する危険性が増大します。実際にここ30年にわたってオオクチバスが、さらに最近10年弱の間にコクチバスが急速に生息水域を拡大した主な原因に、生息水域から非生息水域への意図的な放流が指摘されています。また、少数の公認釣り場に大勢の釣り人が押し掛ければ、資源維持のために大規模な種苗生産施設が必要になり、そこで生産された種苗の一部が不法な移殖に利用される危険性も生じます。外来魚の違法放流を防止することを目的として公認釣り場を設置することは、世界的に例を見ず、保全生物学の視点から見ても誤った政策だと思います。違法放流を防止するためには、これまでの駆除政策を強化しつつ、ブラックバス類の移殖放流はもとより、飼育や譲渡についても適切な規制を加えることが不可欠です。政策転換は、違法放流の実行者の行為を是認することになり、それは生物多様性条約締結国として持つべき理念からも明らかにはずれる世界に恥ずべき退歩であると言わざるを得ません。
 日本魚類学会では今回の政策転換を憂慮し、このまま座視することは本会の社会的責任の放棄につながるとの総意に至りました。大臣におかれましては、上記の諸事情をご勘案いただき、適切なご判断をたまわりますよう、会員を代表して具申する次第です。

 
  < 本意見書についての問い合わせ先 >  
  〒108-8477 東京都港区港南 4-5-7 東京水産大学資源育成学科
日本魚類学会自然保護委員会 外来魚問題検討部会 部会長 丸 山  隆