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  2017年度日本魚類学会賞(奨励賞および論文賞)の選考経緯と理由について

学会賞選考委員会

 
 2017年4月20日に,北海道大学東京オフィスにおいて学会賞選考委員会を開催し,公平かつ慎重な審議の結果,奨励賞候補には下瀬 環氏(西海区水産研究所)を,また論文賞候補には以下の2編を選出した.
  • Tominaga K, Nakajima J, Watanabe K (2016) Cryptic divergence and phylogeography of the pike gudgeon Pseudogobio esocinus (Teleostei: Cyprinidae): a comprehensive case of freshwater phylogeography in Japan. Ichthyological Research, 63: 79-93.
  • 渡辺勝敏・一柳英隆・阿部 司・岩田明久(2014)琵琶湖・淀川水系のアユモドキ個体群の存続可能性分析.魚類学雑誌,61: 69-83 .

以下に,各賞候補について,その審査過程と選考理由を記す.

I. 奨励賞候補
 奨励賞候補には5名の応募があった.いずれの候補者もそれぞれの研究分野において顕著な業績をあげていることが確認された.各応募者の研究のインパクトと独創性,国際誌への掲載論文数と質,社会・教育活動での貢献,本学会での活動状況,将来性等を基準に評価を行った.その結果,特に評価の高かった2名について討議し,最終的には投票により下瀬 環氏を奨励賞候補に決定した.

下瀬 環氏(西海区水産研究所)の選考理由
 下瀬 環氏は現在38歳で,水産研究・教育機構 西海区水産研究所 亜熱帯研究センターに研究員として在職している.論文総数は33編,査読付き論文は28編(筆頭著者22編),うち22編はBulletin of Marine Science,Environmental Biology of Fishes,Journal of Fish Biologyなど国際誌に掲載され,評価されている.また,Ichthyological Researchに4編,魚類学雑誌に1編の論文が掲載されており,日本魚類学会における活動が認められる.さらに,国際学会・国際シンポジウムにおける発表が12件(1件の招待講演を含む),国内外の学会・シンポジウムにおける発表が34件(国外2件),英文著書2編,国際会議提出論文と発表が10件にのぼり,研究活動も極めて顕著であると判断された.
 同氏は,これまでに水産重要種であるクロカジキとクロマグロの資源生態学的研究において,広範囲に分布する大型種の繁殖,食性や成長,回遊などの基礎的かつ重要な生活史の解明に精力的に取り組み,大きな成果を上げてきた.その中で特筆すべきは,世界で初めて両種の正確な年齢査定に成功し,今後の資源の有効利用に大きく貢献したことである.また,琉球列島沿岸では浅海性魚類の生活史,分布や分類に関する研究にも精力的に取り組んでいる.研究による新知見は,地元住民や漁業者,調査協力団体向けの報告会で還元され,また商業誌での連載による情報発信にも力を入れている.例えば,カジキ釣りの専門誌「BIGGAME」には,過去10年で40編の解説が掲載された.
 以上のように,同氏は魚類の大型海産魚の生活史や生態分野での顕著な研究業績はもとより,日本魚類学会や社会活動を通して,魚類学の進展に大きく貢献したとして高く評価され,また将来にわたってその活躍が大いに期待される.これらのことから,委員会では,下瀬 環氏が今年度の魚類学会奨励賞候補に最も相応する研究者であるとして選考した .

II. 論文賞候補
 論文賞については,自薦および編集委員会推薦による7編を対象に選考した.これらの論文について,研究論文としての完成度,研究方法や内容の斬新さ,各専門分野と魚類学の進展への貢献などを基準に評価を行った.その結果,特に評価の高かった3編について討議し,最終的には合議のもとに全員一致で上記2編を論文賞候補として決定した.以下に,各論文が高く評価された理由を期す.
  • Tominaga K, Nakajima J, Watanabe K (2016) Cryptic divergence and phylogeography of the pike gudgeon Pseudogobio esocinus (Teleostei: Cyprinidae): a comprehensive case of freshwater phylogeography in Japan. Ichthyological Research, 63: 79-93.
 本論文は,日本列島の淡水生物に関する地理的パターンの主要な成因を解明するため,広域分布種のカマツカについてミトコンドリアおよび核DNAの塩基配列に基づく分子系統解析と系統地理学的解析を行ったものである.本論文は,136水系201地点から得られた1,212個体を解析し,本種の中には非単系統群となる3つの隠蔽系統が含まれるというインパクトのある結果を得た.さらに,分岐年代推定,分布拡大時期に関するミスマッチ分布分析,ベイジアン・スカイラインプロット分析などを組み合わせて,それら種群の分布域形成史を総合的かつ明確に描き出している.以上のように,本論文は分布域を網羅する極めて多くのサンプルを扱い,解析の精緻さ,結果の信頼性や詳細な論議から,論文の質と完成度が極めて高い.したがって,今後のカマツカ類の分類や進化の研究,また日本列島における淡水生物の系統地理学や保全生物学研究の基盤となり得る論文として,全員一致で論文賞に相応しいと判断した.
  • 渡辺勝敏・一柳英隆・阿部 司・岩田明久(2014)琵琶湖・淀川水系のアユモドキ個体群の存続可能性分析.魚類学雑誌,61: 69-83.
 本論文は,保全優先度が極めて高い絶滅危惧種のアユモドキを対象として,残存する3地域個体群のうち,近畿地方唯一となった個体群の現状評価と保全策を個体数変動モデルと個体群存続可能性分析(PVA)に基づいて検討したものである.2006年から8年間にわたるモニタリングで得られたデータセットを用いて,アユモドキの個体群動態を初めて解析し,複数の個体数変動モデルや条件に基づくPVAから得られた予測として,現実的な絶滅リスクに直面していることを定量的に示した.また,それらの結果に基づき,個体群存続のための現実的な保全方策を提言した.本研究の分析は,データセットの制約などのため不十分な点も含まれているが,本種の保全に迅速な対応が必要な時機に和文で出版され,その成果を広く社会還元したことは極めて価値が高い.したがって,今後の日本の希少淡水魚類の保全生態学的研究の進展に大きく寄与する論文として高く評価され,最終的に全員一致で論文賞に相応しいと判断した.
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