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  2016年度日本魚類学会賞(奨励賞および論文賞)の選考経緯と理由について

学会賞選考委員会

 
 2016年4月27日に,名古屋駅前イノベーションハブにおいて学会賞選考委員会を開催し,公平かつ慎重な審議の結果,奨励賞候補には前田 健氏(沖縄科学技術大学院大学)を,また論文賞候補には以下の1編を選出した.
  • Sasaki D, Kimura S (2014) Taxonomic review of the genus Hypoatherina Schultz 1948 (Atheriniformes: Atherinidae). Ichthyological Research, 61: 207-241.
以下に,各賞候補について,その審査過程と選考理由を記す.

I. 奨励賞候補
 奨励賞候補には5名の応募があった.各応募者の研究のインパクトと独創性,国際誌への掲載論文数,将来性,教育面での貢献,本学会での活動状況等を基準に評価を行った.検討討議した結果,特に評価の高かった2名について討議し,最終的には合議のもとに全員一致で前田 健氏を選考することに決定した.

前田 健氏(沖縄科学技術大学院大学)の選考理由
 前田 健氏は現在39歳で,沖縄科学技術大学院大学にポストドクトラルスカラーとして在籍している.論文総数は29編で,うち25編が査読制雑誌に掲載され,さらに19編の筆頭著者の論文がある.そのうち,Ichthyological Researchに4編,魚類学雑誌に1編の論文が掲載されており,日本魚類学会における活動が認められるとともに,Aquatic Biology,Environmental Biology of Fishes,Zootaxaなどの国際誌にも論文が掲載され,評価されている. また,国際学会・シンポジウムにおける発表が12件(1件の招待講演を含む),国内の学会・シンポジウムにおける発表が46件にものぼり,研究活動も極めて顕著であると判断された.
 同氏は,これまでハゼ亜目魚類を主な研究対象とし,その生活史について多くの成果を上げてきた.例えば,カワアナゴ科魚類の溯河時における体長と日齢,および産卵期の解明,同科魚類仔魚の形態形成,ハゼ科魚類の仔稚魚の出現と形態形成,ハゼ亜目の仔稚魚類相などの研究が挙げられる.特に,2014年に出版された「日本産稚魚図鑑 第二版 (沖山宗雄編,東海大学出版会)」では51種のハゼ亜目の仔稚魚を記載しており,本亜目魚類の初期生活史の解明に大きく貢献した.その他にも,研究過程で発見された新種を4種記載しており,本亜目魚類の種多様性の解明にも寄与している.さらに,地域の市民講座などで社会に対する情報発信や子供たちへの啓発活動は34件にのぼる.
 以上のように,前田 健氏は魚類の生活史分野での顕著な研究業績はもとより,日本魚類学会や社会活動を通して,魚類学の進展に大きく貢献したとして高く評価され,また将来にわたってその活躍が大いに期待される.これらのことから,委員会では,前田 健氏が今年度の魚類学会奨励賞候補に最も相応する研究者であるとして選考した .

II. 論文賞候補
 論文賞については,自薦および編集委員会推薦による12編を対象に選考を行った.これらの論文について,研究論文としての完成度,研究方法や内容の斬新さ,各専門分野と魚類学の進展への貢献などを基準に評価を行った.その結果,特に評価の高かった3編について討議し,最終的には合議のもとに全員一致で上記の1編を論文賞候補として決定した.以下に,本論文が高く評価された理由を記す.

 本論文では,海産トウゴロウイワシ科ギンイソイワシ属Hypoatherina について,本属を再定義するとともに,構成種の再記載を行っている.ミトコンドリア DNA の 4 領域を用いた分子系統解析から従来のギンイソイワシ属は非単系統群であり,従来本属魚類とされてきたトウゴロウイワシ “Atherinavalenciennei と“Atherinawoodwardi は本属のクレードと異なる系統的位置を持つことが示された.一方,トガリイソイワシH. panatelaStenatherina 属とされていたが,本研究ではギンイソイワシ属のクレードに含まれた.このような分子系統関係は両顎の骨格形質を含む形態学的特徴からも支持され,結果として従来とは構成の異なる10有効種を含むギンイソイワシ属が再定義され,各種の記載が与えられた.分類学的再検討では形態形質に重きが置かれることが多いが,分子系統学的手法も取り入れることでより信憑性の高い研究となっていることが高く評価された.また本論文では10有効種すべてのタイプ標本が観察されていることに加え,使用した標本は本属魚類の広範な分布域から採集されているため,各種の学名が非常に安定的に使用できることとなったことも極めて意義深い.さらに,本論文は完成度が非常に高いため,今後の分類学的再検討を扱う研究の良き手本となることも期待できる.このように,本論文は魚類学の進展に大きく寄与するものとして評価され,論文賞候補に相応するとして選考された.
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