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  2011年度日本魚類学会賞(奨励賞および論文賞)の選考経緯と理由について

学会賞選考委員会委員長  矢部 衞

 
 本年6月17日に,京都大学において学会賞選考委員会を開催し,公平かつ慎重な審議の結果,奨励賞候補には本村浩之氏(鹿児島大学)を,また論文賞候補には以下の2編を選考した.
  • Matsumoto, S., T. Kon, M. Yamaguchi, H. Takeshima, Y. Yamazaki, T. Mukai, K. Kuriiwa, M. Kohda and M. Nishida. 2010. Cryptic diversification of the swamp eel Monopterus albus in East and Southeast Asia, with special reference to the Ryukyuan populations. Ichthyological Research, 57: 71-77.

  • Miyashita, T. 2010. Unique occipital articulation with the first vertebra found in pristigasterids, chirocentrids, and clupeids (Teleostei: Clupeiformes: Clupeoidei). Ichthyological Research, 57: 121-132.
以下に,各賞候補について,その審査過程と選考理由を記す.

I. 奨励賞候補
奨励賞には5名の応募があった.まず,これらの方々が,それぞれ奨励賞候補者となるに相応する研究業績を有していることを確認した.その後,各応募者の研究の各専門分野の研究進展へのインパクト,国際誌への掲載論文数,将来性,教育面での貢献,本学会での活動状況等を基準に評価を行った.その結果,甲乙付けがたいと評価された二人の候補者について最終的に委員の挙手により多数決を取り,上記の本村浩之氏を奨励賞候補として決定した.

本村浩之氏(鹿児島大学)の選考理由
 本村浩之氏は現在38歳で,鹿児島大学総合研究博物館に在籍する教授である.彼の研究業績は,論文総数125編で,その殆どが審査制雑誌に掲載され,また筆頭著者論文が82編あり,若手研究者でありながら顕著な実績を有していると評価された.
 同氏は,ツバメコノシロ科,フサカサゴ科などの暖海性魚類の分類学的研究に精力的に取り組んできた.また,トンレサップ湖やカンボジアの河川の淡水魚類の研究も進めてきた.これらの中で,特にツバメコノシロ科魚類に関するreviewはFAOの出版するSpecies Catalogueに収録され,世界的に高い評価を受けている.同氏はこのように旺盛な研究活動を続けている一方で、鹿児島大学総合研究博物館において魚類標本コレクションの充実とデータベース化を積極的に進めてきた。また、博物館ボランティアを組織し、講習会や鹿児島県内の魚類調査を企画し、ボランティア養成教材として「魚類標本の作成と管理マニュアル」を執筆するなど、魚類学の普及と地域の魚類研究に大きく貢献してきた。さらに学部、大学院での教育に加え、日本学術振興会の「若手研究者交流支援事業 熱帯域における生物資源の多様性保全の国際教育プログラム」により東南アジアの国々から招聘された10名の大学院生の指導にも携わってきている.
 以上のように,本村氏は、魚類分類学の研究面はもとより、それを基とした学生・留学生の教育・指導,大学博物館の充実と社会へのその活動を通じた魚類学の普及・啓発などを幅広く進めてきており,魚類学の進展に大きく貢献したものとして高く評価され,また将来にわたってその活躍が大いに期待される.これらのことから,委員会では,本村浩之氏が魚類学会奨励賞候補に最も相応する研究者であるとして選考した.

II. 論文賞候補の選考について
 論文賞については,著者から応募があった5編を対象に選考を行った.これらの論文について,研究論文としての完成度,研究方法や内容の斬新さ,各専門分野と魚類学の進展への貢献などを基準に評価を行った.その結果,評価の高かった3編について最終的に委員の挙手により多数決を取り上記の2編の論文を論文賞候補として決定した.なお,今回は編集委員会から推薦された論文はなかった.以下に,各論文が高く評価された理由を記す.
  1. Matsumoto, S., T. Kon, M. Yamaguchi, H. Takeshima, Y. Yamazaki, T. Mukai, K. Kuriiwa, M. Kohda and M. Nishida. 2010. Cryptic diversification of the swamp eel Monopterus albus in East and Southeast Asia, with special reference to the Ryukyuan populations. Ichthyological Research, 57: 71-77.
     本論文は,東南アジアから東アジアに広域分布し,三つの異なる繁殖様式が確認されているタウナギMonopterus albusの集団構造をミトコンドリアDNA(16S rRNA遺伝子領域)の比較分析により遺伝学的に解明し,本種の分化過程について考察した.集団解析から,タウナギには遺伝的に大きく分化した中国大陸北・中部の系統と中国大陸南部・東南アジアの系統が存在し,さらに前者の系統では日本主列島産を含む中国大陸集団と琉球列島集団の明瞭な分化が確認された.この三つ集団は繁殖様式の3型,すなわち親による卵保護をしない(中国大陸南部・東南アジアの系統),雄による口内保育をする(中国大陸集団)および,雄が卵保護をするが口内保育をしない(琉球列島集団)に一致した.また,琉球列島集団は分子時計に基づくと570万年以上前から独自に進化したと推定され,琉球列島固有の種であることが示唆された.以上のことから,タウナギには少なくとも3つの異なる種が含まれていることを明らかにした.本論文は日本の淡水魚類相の形成史を理解する上で重要な知見を提示したものとして高く評価され,魚類学の進展に大きく寄与する研究成果と認められたことから,論文賞候補に相応する論文であるとして選考された.

  2. Miyashita, T. 2010. Unique occipital articulation with the first vertebra found in pristigasterids, chirocentrids, and clupeids (Teleostei: Clupeiformes: clupeoidei). Ichthyological Research, 57: 121-132.
     本論文は,ニシン亜目の多くの魚種の比較解剖に基づき神経頭蓋と脊椎骨の関節構造を記載し,本亜目のヒラ科,オキイワシ科およびニシン科に特有な第1腹椎骨の神経弓基部の前方への伸長をともなうW字型の関節構造を見出し,その系統分類学的な意義を考察した.このW字型の関節構造はニシン亜目の姉妹群であるデンティケプス亜目を含む他の真骨魚類には見られないことや,骨形成過程でニシン科のコノシロでは神経弓基部の前方への伸長化が確認されたがカタクチイワシ科のカタクチイワシではその傾向が見られなかったことから,ヒラ科,オキイワシ科およびニシン科にみられる独自の形質であると判断された.さらに,ニシン目に関する近年の分子系統仮説を踏まえ,この特徴はこれら3科の共有派生形質である可能性が示唆された.近年の分子系統学的研究により従来とは大きく異なる系統仮説が提示されてきているが,本論文は形態学の観点から対象分類群の数多くの魚種を詳細に比較した研究方法と、個体発生の情報を加えながら独自の考察を加え,改めて形態の形質進化の検討を試みた点が,魚類学の進展に大きく寄与するものとして高く評価され,論文賞候補に相応する論文であるとして選考された.
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