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  2008年度日本魚類学会賞(奨励賞および論文賞)の選考経緯と理由について

学会賞選考委員会委員長  南 卓志

 
 本年4月21日に,東京大学海洋研究所において学会賞選考委員会を開催し,公平かつ慎重な審議の結果,奨励賞候補には小北智之氏(福井県立大学)を,また論文賞候補にはShirai, S.M., R. Kuranaga, H. Sugiyama, and M. Higuchi (2006) Population structure of the sailfin sandfish, Arctoscopus japonicas (Trichodontidae), in the Sea of Japan. Ichthyological Research,53(4):357-368.,Inoue, T. and T. Nakabo (2006) The Saurida undosquamis group (Aulopiformes: Synodontidae), with description of a new species from southern Japan. Ichthyological Research 53(4):379-397.,およびCraig, M.T. and P.A. Hastings (2007) A molecular phylogeny of the groupers of the subfamily Epinephelinae (Serranidae) with a revised classification of the Epinephelini. Ichthyological Research 54(1):1-17.を選考した.以下に,各賞候補について,その審議経緯と選考理由を記す.

I. 奨励賞候補の選考について
 奨励賞には5名の応募があった.5名の委員により研究の斬新さ,専門分野の研究進展へのインパクト,国際誌への掲載論文数,将来性,過去の応募歴等を基準にして評価し,各委員から2名ずつを推薦し,推薦された候補者3名についてさらに全体で論議した.この結果,上記の小北智之氏が奨励賞候補として最も適していることが,委員全員の一致で決定された.

小北智之氏(福井県立大学)の選考理由
 小北智之氏は現在36歳で,福井県立大学に在籍する講師である.彼の研究業績は,論文総数20編,そのうち16編が国際誌に掲載され,そのうちの14編が筆頭著者論文である.著書(共編)は2編あり,若手研究者として十分な業績を有していると評価された.  同氏は,大学院時代には魚類の繁殖システム進化の行動生態学的研究に取り組み,フィールドでの行動観察とDNAマーカーを用いた血縁解析の結果,浮性卵を産む魚類におけるスニーキング成功度(受精成功度)の定量化に世界で初めて成功し,代替繁殖戦術採用パターンの適応的意義を検討するなど,斬新的な成果を得ている.
 近年では,魚類の繁殖形質,初期生活史形質の気候適応に関する進化生態学的研究,魚類の生態形質の適応的分化に関する生態遺伝学的研究に取り組み,フィールドワークとラボワークを融合させた研究手法により,魚類の行動生態学,進化生態学,生態ゲノム学に領域を拡げて研究を進めている.ソラスズメダイを対象にした繁殖形質に関する研究においては,緯度集団間の卵サイズにおける反勾配変異(Countergradient variation)の存在と雌の繁殖速度における緯度間補償(Latitudinal compensation)の存在を発見するなど,独創的かつ先導的な研究を進めている.また,繁殖システム変異の遺伝的基盤について解明するために,シロウオ,ハリヨなどを対象に,繁殖形質とゲノムの解析を進めている.氏の研究手法や成果は,従来の壁を打ち破るものとして,魚類学の進展に大きく貢献した点で高く評価され,将来にわたっての活躍が期待できることから,魚類学会奨励賞候補として最も相応しい研究者であるとして,委員全員の一致で選考された.

II. 論文賞候補の選考について
 論文賞には自薦,他薦,編集委員会推薦を併せて20編の応募があった.これらの論文について,研究方法や内容の斬新性,完成度,魚類学への貢献などを基準に評価を行なった.推薦された論文数が多数であるため,まず,各委員から数編ずつを推薦し,ノミネートされた論文について評価を行なった.その結果,上記の3編の論文が論文賞候補として最適であると,委員全員の一致で決定された.以下に,各論文が高く評価された理由を記す.
  1. Shirai, S.M., R. Kuranaga, H. Sugiyama, and M. Higuchi. (2006) Population structure of the sailfin sandfish, Arctoscopus japonicas (Trichodontidae), in the Sea of Japan. Ichthyological Research,53(4):357-368.
     ハタハタの集団構造については,従来,形態的変異やメリスティックキャラクター分析,アイソザイム分析,標識放流などの解析結果から,日本周辺にいくつかの集団が存在するとされてきたが,それぞれの研究において明確な根拠に乏しく,未だ結論に至っていなかった.本論文では,日本周辺に加えて韓国からの標本を用いてミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列分析を行ない,3つのハプログループに分類できたものが,それぞれ北海道太平洋側,日本海の日本西群,朝鮮半島東岸群として,独立した遺伝集団として区別した.さらに,これらの集団の地史的な分化,形成過程について独創的で説得力のある推論を展開した.本論文はその論文としての完成度も高いこと,産業上の重要種であり,資源管理方策などへの波及効果が期待できる成果であることから,論文賞候補に相応しい論文であるとして選考された.

  2. Inoue, T. and T. Nakabo. (2006) The Saurida undosquamis group (Aulopiformes: Synodontidae), with description of a new species from southern Japan. Ichthyological Research 53(4):379-397.
      本論文は,日本周辺からインド洋など西部太平洋に広く分布し,水産業上の重要種であるにもかかわらず,長らく分類学的混乱が続いてきたマエソ属のSaurida undosquamis groupを対象にして,形態学的研究により分類学的検討を行い,1新種の記載を含めた4種S. undosquamis,S. umeyoshii sp. nov.,S. macrolepisおよびS. longimanusとして区別し,識別形質を提示した.産業的にも重要な分類群について果敢にとりくみ,学名を付した意義は大きく,資源生態学への波及効果も期待できるものとして評価され,論文賞候補に相応しい論文であるとして選考された.

  3. Craig, M.T. and P.A. Hastings. (2007) A molecular phylogeny of the groupers of the subfamily Epinephelinae (Serranidae) with a revised classification of the Epinephelini. Ichthyological Research 54(1):1-17.
      本論文は,マハタ亜科の分子系統進化の過程と新たなマハタ族の分類を検討した論文である.対象の分類群はきわめて大きなグループで,熱帯域に汎世界的に分布することから,系統類縁関係の研究はきわめて難解であるとされ,今日に至るまで十分な研究が行われない状態であった.本論文では,このような壮大な課題に対して,膨大なタクソン・サンプリングの努力を投じるなど,果敢に取り組み,ハタ科と外群からなる155種の核DNAとミトコンドリアDNAの塩基配列データを得て,最尤基準と最節約基準を用いた系統解析を行なった.これらの結果と既往の形態学的証拠を加えた考察により,本研究の結果は,ハタ科の単系統性,多数種からなるマハタ属の単系統性に疑義を呈した.本論文では,さらにマハタ族の新たな分類体系を提唱した.本論文は,その論文としての完成度の高さとともに,これまでに混乱してきた本グループの系統類縁関係を解き明かし,グループ間の系統仮説を反映した新たな分類体系を提唱した点で,論文賞候補に相応しい論文であるとして選考された.
2008年6月12日
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